映画「マネーボール」

スポーツを題材にした映画は現在まで多数製作されてきました。中でも野球はその題材としても人気で、ハリウッドでも日本でも度々取り上げられています。「マネーボール」もそのうちの一つなのですが、ちょっと変わっているのは選手たちが主役なのではなく、球団を運営するゼネラル・マネジャー(GM)が主人公というところです。この物語は、実在のGMであるビリー・ビーンが、弱小貧乏球団を強くするため、野球界に革命を起こす様子を描いた映画です。ほとんど実話通りに映画は作られており、周りに味方がおらず、選手にも監督にも嫌われる中で戦い抜いた男の姿を丁寧にそしてドラマチックに描いています。野球が好きな人はもちろん、野球なんてルールも分からないという人でも楽しめる映画だと思います。

映画「マネーボール」について

映画「マネーボール」は、2011年のアメリカ合衆国の映画です。マイケル・ルイスによる「マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男」を原作とし、オークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャー、ビリー・ビーンが「セイバーメトリクス」と呼ばれる選手の評価や戦略をデータで分析する手法を用い、経営危機に瀕した球団を再建する姿を映し出しています。監督は、「カポーティ」のベネット・ミラー。ビーン役はブラッド・ピットが演じました。この作品は、第24回東京国際映画祭にて公式クロージング作品としてアジアプレミア上映されました。

ストーリー(ネタバレ)

ビリー・ビーンは、かつて超高校級選手としてニューヨーク・メッツから1巡目指名を受けたスター候補生でした。名門スタンフォード大学への奨学生の権利を獲得していたビリーでしたが、スカウトの言葉を信じて大学進学を止め、プロの道を選んだのでした。しかし、風変わりで短気、腹が立つと人や物に当り散らすという自身の性格も災いし、鳴かず飛ばずの日々を過ごし、様々な球団を転々とした挙句に僅か27歳で現役を引退することになったのでした。その後ビリーはスカウトに転進し、第二の野球人生を歩み始めます。2001年、ビリーはオークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャーとなっていました。アスレチックスは弱く、資金難のために優秀で年俸の高い選手を獲得することもできず、当然チームは低迷します。2001年のポストシーズンも例外ではなく、アスレチックスはニューヨーク・ヤンキースの前に敗れ去ったのでした。さらに悪いことに、オフにはスター選手であるジョニー・デイモン、ジェイソン・ジアンビ、ジェイソン・イズリングハウゼンという3選手がFAによって移籍することが確定していたのです。ビーンは2002年シーズンに向けて戦力を整えるべく補強資金を求めますが。スモールマーケットのオークランドを本拠地とし、資金に余裕のないオーナーの返事は冷たいものでした。

ビリーの転機

ある日、トレード交渉のためにクリーブランド・インディアンズのオフィスを訪れたビーンは、イエール大学卒業のスタッフ、ピーター・ブランドに出会います。ブランドは野球経験はないもののデータ分析が得意で、各種統計から選手を客観的に評価するセイバーメトリクスを用い、他のスカウトとは違う視点で選手を評価していました。ブランドの理論に興味を抱いたビーンは、その理論をあまり公にできずに肩身の狭い思いをしていた彼を自身の補佐として引き抜き、他球団から評価されていない埋もれた戦力を発掘し低予算でチームを改革しようと試みます。低予算でいかに強いチームを作り上げるか、という彼らの理論は、同時に野球はデータではなく人間がやるものだという野球界の伝統を重んじる古株のスカウトマンだけでなく、選手やアート・ハウ監督らの反発を生み、チームの状況はますます悪化していくのでした。

チームの転機

周りの反発が一層強くなる中でも、強引に独自のマネジメントを進めていくビリー。長年アスレチックスのスカウトを務めたヘッドスカウトも、ビリーのやり方に反対したことで首にされてしまいます。そんな中でシーズンが始まり、4月のチームの成績は最下位。ビリーが1塁手にとスカウトしたハッテバーグは、守備が下手だからという理由で監督が試合で使うことを拒否します。出塁率の良さから獲得したジアンビの弟も、スカウト陣が危惧した通り素行が悪く、チームの雰囲気も悪くなる一方でした。7月までに結果を出すとオーナーに宣言した手前、何とかチームを立て直さなければと思案するビリー。監督がハッテバーグの替わりに使い続けていた選手をトレードに出し、ジアンビの弟もチームから放出して逃げ道を絶ったのでした。替わりの一塁手が一人もいなくなったチームで、ハウ監督は仕方なくハッテバーグを起用することになります。首を切るときに同情してしまうからという理由で選手と交流を持たなかったビリーですが、自らトレーニングルームに入って選手と話し、敵チームのデータを選手たちに伝えるようにしました。すると、チームの勝率はみるみる上がり、次々に連勝を重ねるまでになったのです。

新記録を達成

19連勝をあげたアスレチックス。あと1勝すればチームの連勝記録を塗り替える快挙となります。20連勝をかけた試合、自分が試合を見ると負けるという迷信を信じていたビリーは、いつものようにラジオで中継を聞こうと思っていたのですが、娘に懇願され球場に出向くことにしました。アスレチックスは序盤に11点という大量得点を奪いますが、ビリーが球場に到着した途端、チームはミスを繰り返し、9回表には同点にまで追いつかれてしまいます。嫌なムードが漂うなか、監督が代打に選んだのはハッテバーグでした。チームの期待を一身に背負ったハッテバーグは、見事勝ち越しのホームランを放ち、チームを20連勝という快挙へ導いたのでした。

チームとビリーのその後

2002年ポストシーズン、アスレチックスは選手の奮闘もむなしく、またも敗れ去ってしまいます。“マネーボール”の理論に一時は理解を示した周囲も、やはりだめだったと再び批判の矢を向けるのでした。シーズンオフになるとビリーは、豊富な資金力をもつボストン・レッドソックスのオーナーに引き抜きの話を持ち掛けられます。レッドソックスならば、潤沢な資金と自分の考えを理解してくれるスタッフに恵まれ、好きなようにできる。GM史上最高額のオファーに揺れるビリーでしたが、高校を卒業したあと、金のために大学進学をやめてプロになり、そして人生を棒に振った過去を思い出し、二度と金で人生を決めないと決断していたのでした。結局、ビリーは巨額のオファーを蹴ってアスレチックスに残る道を選んだのです。2004年シーズン、レッドソックスはビリーたちの理論を用いてワールドシリーズを制覇。その理論が正しかったことを世に認めさせたのでした。

キャスト

  • ビリー・ビーン・・・ブラッド・ピット
  • ピーター・ブランド・・・ジョナ・ヒル
  • アート・ハウ・・・フィリップ・シーモア・ホフマン
  • シャロン・・・ロビン・ライト
  • ケイシー・ビーン・・・ケリス・ドーシー
  • スコット・ハッテバーグ・・・クリス・プラット
  • デヴィッド・ジャスティス・・・スティーヴン・ビショップ
  • ロン・ワシントン・・・ブレント・ジェニングス
  • グレイディー・ファンソン・・・ケン・メドロック
  • チャド・ブラッドフォード・・・ケイシー・ボンド
  • ミゲル・テハダ・・・ロイス・クレイトン
  • ジョン・メイブリー・・・デヴィッド・ハッチソン
  • マーク・エリス・・・ブレント・ドーリング
  • スティーブ・ショット・・・ボビー・コティック
  • ジョン・ヘンリー・・・アーリス・ハワード

スタッフ

  • 監督・・ベネット・ミラー
  • 脚本・・・スティーヴン・ザイリアン、アーロン・ソーキン
  • 原案・・・スタン・チャーヴィン
  • 原作・・・マイケル・ルイス「マネー・ボール 奇跡のチームをつくった男」
  • 製作・・・マイケル・デ・ルカ、レイチェル・ホロヴィッツ、ブラッド・ピット
  • 製作総指揮・・・スコット・ルーディン、アンドリュー・S・カーシュ、シドニー・キンメル、マーク・バクシ
  • 音楽・・・マイケル・ダナ
  • 撮影・・・ウォーリー・フィスター
  • 編集・・・クリストファー・テレフセン

実話との違い

この映画は、ビリーが用いた“マネー・ボール”の理論や、それに基づいて無名の選手を雇ったこと、結果的に20連勝を達成したこと、またその試合の展開など、ほぼ事実に忠実に作られています。ですが、若干の脚色がある部分もあります。主人公のビリー・ビーンの補佐役でイェール大学卒業となっているピーター・ブランドのモデルは、ポール・デポデスタという人物で、ハーバード大学卒業です。映画化にあたり、あまりにも自分と異なる外見の俳優がキャスティングされたことや、データおたくのようなキャラクターの描かれ方に納得できず、実名の使用を拒否したため、ピーター・ブランドという役名が付けられました。しかし、映画製作に関しては協力的だったそうです。また、素行不良の問題児ジェレミー・ジオンビは、映画序盤に他球団から獲得したように描かれていますが、実際には映画序盤に相当する時期には既にチームに在籍していました。ジェレミー・ジオンビの素行の悪さは事実だそうです。

感想

私は野球観戦が好きで、よく野球を観に行きます。野球映画ももちろん好きでこちらもよく観に行くのですが、この「マネーボール」は久々にいい映画でした。私はどちらかというとスポーツは根性だ!と思っている方なので、努力すればきっと勝てると信じており、データ野球なんて面白くないと思い込んでいました。ですがこの映画をみて、データに頼っているからと言って冷徹非道なわけではなく、勝利への執念や野球への情熱は変わらないのだということに気付かされました。俳優陣が素晴らしく、主演のブラッド・ピットはもちろんですが、その相棒役のジョナ・ヒルが素晴らしかったです。ジョナ・ヒル演じるピーターは、ハリウッド映画の典型的な“使えるオタク”キャラで、元のチームでは言いたいことも言えずにくすぶっていたところをビリーがスカウトしたという経緯なのですが、この2人の掛け合いは非常に気持ちがよく、観客も一緒になって野球界を変えてやろうという気持ちにさせてくれるのです。突飛なことを始めたビリーに周りの連中はみんな反発し、孤軍奮闘となるなか、ピーターだけがビリーの味方になってくれ、彼を支えてくれるのです。また、チームの選手役の俳優たちの演技も素晴らしく、リアリティを出すために野球経験のある俳優を起用したとのことでした。ストーリーは実話をほぼ正確に描いているのですが、思いのほかチームの低迷期間が長く、ハッテバーグを使わない監督にイライラさせられたり、ジオンビの弟の態度の悪さに憤慨したりとビリーと同じ感情で映画を見ていました。そうしてチームの快進撃が訪れるので、その時の爽快感はひとしおです。ピーターと一緒にガッツポーズをした観客も多かったのではないでしょうか。余談ですが、私はビリーが試合に行くと負けるという迷信を信じていることに深く共感しました。私も応援に行くときは前回勝ったときに使っていたメガホンを持っていったり、試合に負けると「今日は新しいユニホームにしたからかも」と思ったりします。自分一人のメガホンやユニホームのせいで、プロのチームの勝敗が左右されるわけがないのですが、ゲンを担ぐという意味でもそういうことを大切にする野球ファンは多いように思います。ですから、20連勝の試合にビリーを連れだしてくれた娘も、ビリーが来ても負けなかったアスレチックスにも拍手を送りたい気持ちになりました。また、ハッテバーグがあの場面でホームランを打ったことも事実であると知り、野球はやはり面白いと確信しました。スポーツには色々なドラマが詰まっているんですね。ビリーが大金で誘われたレッドソックスを蹴ってアスレチックスに残ったというのも最高にカッコいいと思いました。野球好きはもちろんのこと、野球のことが分からない人でも爽快な気分になれる映画です。

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